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東京地方裁判所 平成5年(ワ)158号 判決

原告

株式会社ライフ

右代表者代表取締役

渡邉秀明

右訴訟代理人弁護士

村田英幸

被告

有限会社ミツヤ自動車

右代表者代表取締役

小長谷俊二

被告

小長谷俊二

右両名訴訟代理人弁護士

太郎浦勇二

被告

高田茂

右訴訟代理人弁護士

立見廣志

主文

一  被告有限会社ミツヤ自動車は原告に対し、金二〇五万円及び内金二〇〇万円に対する平成五年一月一日から支払済みまで年29.2パーセントの割合による金員を、内金五万円に対する同日から支払済みまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  被告小長谷俊二は原告に対し、金二〇五万円とこれに対する平成五年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告高田茂は原告に対し、金二三〇万四六〇〇円及び内金二二〇万八六〇〇円に対する平成五年一月一七日から、内金九万六〇〇〇円に対する同年二月四日から各支払済みまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

四  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

六  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告有限会社ミツヤ自動車及び被告小長谷俊二は原告に対し、各自金二〇五万円とこれに対する平成五年一月一日から支払済みまで年29.2パーセントの割合による金員を支払え。

2  (被告高田茂に対する主位的請求)

被告高田茂は原告に対し、金二三〇万四六〇〇円とこれに対する平成五年一月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  (被告高田茂に対する予備的請求)

被告高田茂は原告に対し、金二三〇万四六〇〇円とこれに対する平成二年一二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、割賦購入斡旋等を業とする会社で、被告有限会社ミツヤ自動車(以下「被告会社」という。)は、被告小長谷俊二(以下「被告小長谷」という。)を代表者代表取締役とする自動車の販売等を業とする会社である。

2  原告は、平成元年三月一六日、被告会社との間で左記内容の加盟店契約(以下「本件加盟店契約」という。)を締結した。

① 被告会社は、原告が承認した顧客に対して自動車の販売等をする。

② 右①の場合、原告は被告会社に対して右顧客が被告会社に支払うべき代金及び所定の管理運営費を支払う。

③ 顧客は原告に対し、右代金に所定の手数料を加算した額を分割して支払う。

④ 割賦販売法三〇条の四に基づいて顧客が原告に対して割賦金の支払いをしない場合、原告が被告会社に支払停止の抗弁のある販売代金について立替払済みのときは、顧客の主張する支払停止の抗弁事由に理由がないことを被告会社が立証し、かつ原告が相当と認めた場合を除き、被告会社は原告より請求あり次第、直ちに立替払済代金相当額を立替金返還債務の保証金として、請求日以降支払いある日まで、請求額に対して年29.2パーセントの割合による遅延損害金を付して原告に支払う。

⑤ 契約書が顧客の名義貸しにより作成され、かつ被告会社の故意又は過失によりこれを看過した場合、原告が被告会社に販売代金について立替払済みのときは、被告会社は当該立替済代金額に年29.2パーセントの割合による遅延損害金を付して原告に支払う。

3  原告は、平成二年一二月二九日、被告高田茂(以下「被告高田」という。)との間で左記内容の立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)を締結した。

① 原告は、被告高田が販売店である被告会社から同日購入した自動車(ハイエースVスーパーGL、以下「本件自動車」という。)の代金二〇〇万円を立替払いする。

② 被告高田は原告に対し、右立替金二〇〇万円及び手数料金三〇万四六〇〇円の合計金二三〇万四六〇〇円を、平成三年二月から平成五年二月まで毎月三日限り金九万六〇〇〇円ずつ分割して支払う(ただし、初回のみ金九万六六〇〇円)。

4  原告は被告会社に対し、平成三年二月一五日までに、右各契約に基づき本件自動車代金である金二〇〇万円とこれに対する管理運営費(右立替払契約に伴う手数料)である金五万円の合計金二〇五万円を支払った。

5  (被告会社の責任原因)

(一) (主位的主張)

(1) 被告高田は原告に対し、本件自動車の引渡しを受けていないとして、支払停止の抗弁を主張している。

(2) 被告会社は原告に対し、前記2④の特約(以下、単に「④の特約」という。)に基づき、被告高田の主張する右(一)の支払停止の抗弁事由に理由のないことを被告会社が立証し、かつ原告が認めた場合を除き、被告会社は原告より請求のあり次第直ちに立替済代金相当額を立替金返還債務の保証金として原告に支払う義務がある。

(二) (予備的主張)

仮に、被告高田が、名義貸しをしたとすれば、これは被告会社の従業員である葛田正治(以下「訴外葛田」という。)と通謀して行ったものであり、被告会社がこれを看過したことには過失があるから、被告会社は原告に対し、前記2⑤の特約(以下、単に「⑤の特約」という。)に基づき立替金を返還すべき義務がある。

(三) 原告は被告会社に対し、平成四年一二月二四日到達の書面をもって、右4の支払済み金員たる金二〇五万円を同書面到達後七日以内に支払うよう催告した。

6  (被告小長谷の責任原因)

被告会社は、被告小長谷個人の個人営業が法人成りしたもので、実質は同被告の営業であるところ、①本件立替払いは不良債権の回収に使われ、善意の原告を欺く経緯があり、②同被告は、本件立替払契約を締結するに際して訴外葛田に権限を与えておきながらその監督を怠り、③名義貸しか否かはともかくとして、もっぱら本件自動車が引き渡されておらず、その原因として訴外葛田が代金着服行為をして本件立替払契約を締結した経緯について監督を怠ったという取締役としての重大な過失があったのであるから、同被告は有限会社法三〇条の三第一項に基づく損害賠償責任を負う。

同被告の右行為により、原告において、右保証金二〇〇万円と管理運営費五万円の合計金二〇五万円とこれに対する年29.2パーセントの割合による遅延損害金と同額の損害が生じた。

7  (被告高田の責任原因)

(一) (主位的請求に係る主張)

被告高田は原告との間で本件立替払契約を締結したのであるから、右契約上の責任を負う。

(二) (予備的請求に係る主張)

仮にそうでないとしても、被告高田は訴外葛田と共謀して、真実は立替払契約の意思がないのに、平成二年一二月二九日ころ、原告従業員の電話確認に対して、あたかも立替払契約をする旨虚偽の申し出をして原告を欺き、もって、平成二年一二月二九日、本件立替払契約を成立させて、本件立替金及び手数料相当額の損害を原告に被らせた。

よって、原告は、被告会社に対し前記特約に基づく立替金返還請求として金二〇五万円とこれに対する弁済期の翌日である平成五年一月一日から支払済みまで約定利率年29.2パーセントの割合による遅延損害金の支払いを、被告小長谷に対し有限会社法三〇条の三第一項に基づく損害賠償請求として金二〇五万円とこれに対する弁済期の経過した後である平成五年一月一日から支払済みまで年29.2パーセントの割合による遅延損害金の支払いを、被告高田に対し主位的に右立替金及び手数料の残額金二三〇万四六〇〇円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年一月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の、予備的に不法行為に基づく損害賠償請求として金二三〇万四六〇〇円と本件不法行為日である平成二年一二月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める。

二  請求原因に対する被告会社及び被告小長谷の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、被告会社が本件加盟店契約に署名押印したことは認めるが、その余の事実は知らない。

3  同3の事実は認める。

4  同4の事実は認める。

5  同5の(一)のうち、(1)の事実は知らない。(2)の主張は争う。(二)の主張は争う。(三)の事実は認める。

6  同6の事実は争う。

被告小長谷は、有限会社金沢ビニール工業(以下「訴外会社」という。)の入金が遅れているので、催促したところ、従業員の訴外葛田からローンを組んで支払うことになったとの報告を受け、原告から入金があり、すべて決済されたものと考えていたのである。このように被告小長谷は、被告会社の代表者として善意で処理したのであるから、責任はない。

三  請求原因に対する被告高田の認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は知らない。

3  同3の事実中、被告高田が本件立替払契約に署名押印したことは認めるが、②の事実は争う。

4  同4の事実は知らない。

5  同7の(一)のうち、被告高田が本件立替払契約に署名押印したことは認めるが、主張は争う。(二)のうち、被告高田が平成二年一二月二九日ころ、原告の従業員からの確認に対して契約の締結を肯定したことは認めるが、その余の事実は否認する。

四  抗弁

1  (被告会社の抗弁)

被告会社は、平成二年九月二五日、訴外会社代表者高田健一(以下「訴外高田」という。)からトヨタハイエーススーパーGLの発注を受け、右代金につきローンを組み、被告高田がローンを支払っていくということで、同年一〇月三一日、右車両を訴外高田に引き渡した。

被告会社としては、訴外会社と被告高田は同一人であり、注文者も引渡しも代金の支払いも同一人のものと考えており、ローンを組んで入金された以上、その後のことは原告と被告高田との問題であり、被告会社は責任を負わない。

2  (被告高田の抗弁)

(一) 本件立替払契約によれば、契約者は車両の引渡しがされないときは、その事由が解消されるまでの間、原告に対する支払いを停止することができるとされているところ(同契約一二条一項一号)、被告高田は被告会社から本件自動車の引渡しを受けておらず、支払停止の抗弁を主張する。

(二) また、被告高田は、被告会社の右債務不履行により平成三年六月一三日付け書面により本件立替払契約を解除したので、被告高田は右契約上の債務を負担していない。

五  抗弁に対する認否

1  抗弁1の主張は争う。

2  同2の(一)のうち、主張のとおりの特約があることは認めるが、主張の趣旨は争う。(二)の主張は争う。

六  再抗弁

被告高田は、被告会社の従業員である訴外葛田の依頼により、平成二年一二月二八日ころ、本件立替払契約上の主債務者となることを承諾し、同月二九日ころ、原告従業員の意思確認に対しても肯定的に返事をしていたもので、いわゆる名義貸し人であるから、被告高田が支払停止の抗弁を用いるなどして右契約上の責任を免れることは信義に反し許されない。

七  再抗弁に対する認否

被告高田が平成二年一二月二九日ころ、原告の従業員からの確認に対して契約の締結を肯定したことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三  証拠 〈省略〉

理由

一(請求原因1について)

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二(請求原因2について)

請求原因2のうち、原告と被告会社及び被告小長谷との間においては、被告会社が本件加盟店契約に署名押印したことは争いがなく、これと原告と被告会社及び被告小長谷との間において成立に争いがなく、被告会社代表者兼被告小長谷本人尋問の結果により成立の認められる〈書証番号略〉によれば、請求原因2の事実が認められる。

三(請求原因3について)

請求原因3の事実は原告と被告会社及び被告小長谷との間においては争いがなく、原告と被告高田との間においては、被告高田が本件立替払契約に署名押印したことは争いがなく、これと支払期間の欄の記載部分を除き右当事者間において成立に争いがない〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば請求原因3の事実が認められる。

四(請求原因4について)

請求原因4の事実は原告と被告会社及び被告小長谷との間においては争いがなく、原告と被告高田との間においては、被告会社代表者兼被告小長谷本人尋問の結果によれば請求原因4の事実が認められる。

五(被告会社の責任について)

1  〈書証番号略〉、被告高田本人尋問の結果によれば、被告高田が原告に対して、本件自動車の引渡しを受けていないとして、平成三年二月ころから支払停止の抗弁を主張して、本件立替払契約に基づく割賦金を全く支払っていないことが認められる。

2 そこで、被告高田の主張する支払停止の抗弁事由に理由があるか否かについて判断するに、〈書証番号略〉、被告会社代表者兼被告小長谷本人尋問の結果により成立の認められる〈書証番号略〉並びに被告会社代表者兼被告小長谷本人尋問、被告高田本人尋問の各結果(後記の措信しない部分を除く。)によれば、以下の事実が認められる。すなわち、

(一) 被告会社は訴外会社に対し、平成二年九月、新車トヨタハイエーススーパーGLを販売したこと、訴外会社は被告会社の販売担当の従業員である訴外葛田に対し、平成二年九月二八日、右販売代金二一三万三四八九円を支払い、被告会社は訴外会社に対し、同年一〇月、右自動車を引き渡したこと、

(二) しかるに、訴外葛田は右販売代金を着服し、被告会社に入金しなかったため、被告会社の代表者である被告小長谷は、右販売代金が未だ支払われていないものと誤解し、訴外葛田に対し、右販売代金を回収するよう指示したところ、平成二年一二月二九日、訴外葛田は被告小長谷に対し、訴外会社から現金で入金になる予定がローンに代わった旨告げ、本件立替金契約書(〈書証番号略〉)を交付したこと、右契約書によれば、契約者は被告会社ではなく被告高田である上、同被告の勤務先は高田ビニールとされ、また、購入した本件自動車の車種は新車トヨタハイエースVスーパーGL、現金価格は合計額金二二六万円で、うち頭金を現金二六万円とし、残金二〇〇万円についてローンを組むこととし、支払期間は平成三年二月からと記載されていたこと、ところで、訴外会社はビニール製品製造加工販売を業とし、被告高田の兄である訴外高田が代表者取締役に、被告高田が取締役にそれぞれ就任しており、被告高田は、これとは別に肩書住所地において高田ビニールの名称で、ビニール加工業を営んでいるが、被告会社と訴外会社との取引においては、訴外会社の注文等が被告高田によってされることもあり、被告会社としては、訴外会社と被告高田とを区別せず会計処理をしてきたこと、被告会社としては、このような会計処理がされてきたこともあって、被告小長谷としては、これが、訴外会社に販売した自動車に関する立替払契約であると考えていたこと、そして、平成三年一月二三日、訴外葛田は訴外会社からの入金であるとして、金一三万三四八九円を被告会社に入金し、また、同年二月一五日までに原告から被告会社に対して、本件立替払契約に基づき金二〇〇万円が振り込まれたため、被告小長谷は、これらを、訴外会社に対する前記販売代金に充当し、これにより、訴外会社に対する前記販売代金の全額が回収されたものと理解していたこと、

(三) 被告高田と訴外葛田とは小学校以来の友人であるところ、被告高田は、平成二年一二月二九日、被告会社の販売担当者である訴外葛田との間で本件立替金契約書を作成し、被告高田は自ら右契約書の契約者欄に署名押印し、同月二九日ころ、原告従業員の意思確認に対して肯定的に返事をしたこと、右契約書によれば、右のとおり、現金価格金二二六万円のうち頭金を現金二六万円、残金二〇〇万円についてローンを組むこととされているが、現金として記載されている現金二六万円については、支払時期等は定められておらず、現在まで支払っていなこと、また、被告高田が右契約書を作成した際には、支払期間の記載はなく、被告高田としては支払期間の合意はされていないものと理解していたこと、

(四) 訴外葛田は、平成三年二月一二日に、被告会社に出勤しなくなり、行方不明となったこと、その後、訴外会社に対する件の他にも、買主が代金を訴外葛田に支払ったにもかかわらず、被告会社に入金していないものがあり、また、訴外葛田は多額の負債を有していたことが、被告会社に対する債権者からの問い合わせ等により判明したこと、平成三年二月一八日ころ、被告高田が被告会社を訪れ、被告小長谷に対して、本件立替金契約は訴外葛田に頼まれて名義を貸しただけであり、訴外葛田がいなくなり困った旨述べるなどし、また、同月一九日には、被告高田は被告小長谷に対して一括返済したらいくらになるのか問い合わせたこと、

(五) 被告高田は原告に対し、平成三年二月以降、被告会社から本件自動車が引き渡されていないことを理由として支払停止を申し立てており、取引銀行の手違いで平成三年五月二七日に一回分が引き落とされたが、翌日、原告から同額が右口座に振り込まれ、結局、本件立替払契約に基づく支払いはされていないこと、また、同被告は原告に対し、平成三年六月一三日付け内容証明郵便で、平成三年六月二〇日までに車両の引き渡しがされなければ、本件立替払契約を解除する旨の通知をしたこと、

以上の事実が認められ、右認定に反する被告らの尋問の各結果部分は、措信しない。

右の認定事実によれば、本件立替払契約は、訴外会社に対する自動車販売についてされたものでなく、被告高田に対する本件自動車についてのものであるから、被告会社が訴外会社に自動車を引き渡していたとしても、被告高田に本件自動車を引き渡していない以上、被告高田は被告会社から本件自動車の引き渡しを受けていないものというべきである。

次に、右の認定事実によれば、訴外葛田は、訴外会社から受領し着服した自動車販売代金に充てるために、本件立替払契約を利用したものであるところ、本件立替払契約は、訴外会社の取締役でもある被告高田において訴外会社が購入した自動車と同一の車種の自動車をほぼ同時期に購入するという紛らわしいもので、右契約書に頭金として記載されている現金二六万円については、支払時期等は定められておらず現在まで支払っていないとか、また、被告高田が右契約書を作成した際には、立替払契約にとって基本的な要素である支払期間の記載がなかったので、被告高田としては支払期間の合意はされていないものと理解していたと述べるなど、合理的な取引としては不自然な点がみられる上、被告高田において、本件立替金契約を締結した平成二年一二月二九日から訴外葛田が失踪した平成三年二月一二日までの間において、訴外葛田ないし被告小長谷ら被告会社の関係者に本件自動車の引渡しを求めておらず、訴外葛田の失踪が判明した直後も、被告小長谷に対して、購入した本件自動車の引渡しを求めておらず、逆に、本件立替金契約は訴外葛田に頼まれて名義を貸しただけであり、訴外葛田がいなくなり困った旨述べたり、一括返済したらいくらになるのか問い合わせるなどしたことが認められるのであって、以上の事実に照らせば、被告高田は、自ら真に本件自動車を購入する意思がなく、訴外葛田に対して名義を貸すことを承諾して、本件立替金契約書に署名押印し、原告従業員の意思確認に対しても肯定的に返事をしたものであるというべきである。

そうであるとすれば、被告高田において、原告に対して本件自動車が引き渡されていないことを理由として支払停止の抗弁を援用することは、信義則上、許されないものというべきであり、被告高田の支払停止の抗弁には理由がないものというべきである。

そこで、原告の被告会社に対する本件加盟店契約④の特約に基づく支払請求には理由がないこととなる。

3  次に、被告高田が、名義貸しをしたことは前記認定のとおりであるところ、被告会社代表者兼被告小長谷本人尋問の結果によると、被告会社には従業員は四名おり、このうち営業を担当しているのは被告小長谷と訴外葛田の二名であるところ、被告小長谷は訴外葛田に対して、車両の販売に必要な一切の権限を与えていたことが認められ、これに加えて前記2の認定事実によれば、本件立替払契約は、訴外葛田が訴外会社から受領し着服した自動車販売代金に充てるために、被告高田の名義を借りて締結したものであるところ、本件立替払契約が訴外会社の支払いのためにされたものとすれば、訴外会社に対する車両の引渡しから二か月以上を経過して成立し、しかも、本件立替払契約の書面上、契約者は訴外会社ではなく高田ビニールに勤務する被告高田とされているなど不自然な点があるのであるから、被告会社としては、従前、訴外会社と被告高田とはその支払関係において同一であるとして処理してきたという経緯があるとしても、被告会社の代表者である被告小長谷において、訴外葛田が販売代金を着服し、ひいては他人の名義を借りて立替払契約を締結することがないように充分な監督を行い、また、本件立替払契約の締結に際して、訴外会社に問い合わせるなどすべきであったにもかかわらず、これを怠り、訴外葛田の販売に係る契約事務の一切を同人に任せ、何ら充分な監督を行わず、本件立替払契約の締結に際しても、訴外会社に問い合わせる等せず、このため、被告高田の名義貸しによる本件立替払契約を成立するに至らしめたものであるから、被告会社が、この名義貸しを看過したことには、過失があるものというべきである。

そこで、被告会社は原告に対して本件加盟店契約の⑤の特約に基づく金員の返還義務を負うものというべきである。

そして、原告は被告会社に対し、平成四年一二月二四日到達の書面をもって、右支払済金員である金二〇五万円(立替金二〇〇万円及び管理運営費金五万円の合計金)を同書面到達後七日以内に支払うよう催告したこと(右各事実は原告と被告会社との間において争いがない。)からすると、被告会社は原告に対して、右立替金二〇〇万円につき右⑤の特約に基づき平成五年一月一日から支払済みまで年29.2パーセントの遅延損害金を付して、管理運営費五万円につき本件加盟店契約(〈書証番号略〉)一七条二項二号を類推して同日から支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金を付してそれぞれ返還する義務があるものというべきである。

六(被告小長谷の責任について)

1 被告小長谷の有限会社法三〇条の三第一項に基づく責任について判断するに、前記五、3に述べたとおり、被告会社の代表取締役である被告小長谷において、訴外葛田が、車両の販売代金を着服し、ひいては他人の名義を借りて立替払契約を締結することのないよう充分な監督を行い、また、本件立替払契約の締結に際して、訴外会社に問い合わせるなどすべきであったにもかかわらず、これを怠り、訴外葛田の販売にかかる契約事務の一切を同人に任せ、何ら充分な監督を行わず、本件立替払契約の締結に際しても、訴外会社に問い合わせる等しなかったのであるから、被告小長谷は、この名義貸しを看過して本件立替払契約を成立させたことには、被告会社の取締役としての任務を遂行するに当たって著しく注意を欠いていたものというべきであり、被告小長谷は原告に対し、有限会社法三〇条の三第一項に基づき、原告が被った損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

2  原告は、本件立替払契約に基づいて、平成三年二月一五日までに、被告会社に対して、立替金二〇〇万円と管理運営費金五万円の合計金二〇五万円を支払ったのであるから、これと同額の損害を被ったものということができる。ところで、原告は、右金員に対して年29.2パーセントの約定遅延損害金と同額の損害金をも求めるが、右約定遅延損害金が直ちに右不法行為の損害についての遅延損害金となるわけではないし、また、これをもって逸失利益であるとすることもできないから、右約定遅延損害金と同額の損害の賠償を求める部分は理由がないこととなる。

七(被告高田の責任について)

1 被告高田が原告との間で本件立替払契約を締結したこと、本件契約によれば、契約者は車両の引渡がされないときは、その事由が解消されるまでの間、原告に対する支払いを停止することができるとされているところ(同契約一二条一項一号)、被告高田は被告会社から車両の引渡しを受けていないとして支払停止の抗弁を主張していることは当事者間に争いがない。そして、被告高田が名義貸しをしたことは前記認定のとおりであるから、被告高田が支払停止の抗弁を用いて右契約上の責任を免れることは信義に反し許されないものというべきである。

また、被告高田は、被告会社から本件自動車の引渡しを受けていないことを理由として、本件立替払契約を解除したと主張するが、被告高田が名義貸しをしたことは前記認定のとおりであり、被告高田が本件自動車の引渡しを受けていないことを理由として、右契約上の責任を免れることは信義に反し許されないものというべきである。

2  そこで、被告高田は原告に対し、本件立替払契約に定められたとおりの支払義務、すなわち、立替金及び手数料金三〇万四六〇〇円の合計金二三〇万四六〇〇円を、平成三年二月から平成五年二月まで毎月三日限り金九万六〇〇〇円ずつ(ただし、初回のみ金九万六六〇〇円)分割して支払うべき義務を負うものということができる。

八(結語)

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告会社に対し前記特約に基づく立替金返還請求として金二〇五万円及び内金二〇〇万円に対する弁済期の翌日である平成五年一月一日から支払済みまで約定利率年29.2パーセントの割合による、内金五万円に対する同日から支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による各遅延損害金の支払いを、被告小長谷に対し有限会社法三〇条の三第一項に基づく損害賠償請求として金二〇五万円とこれに対する弁済期の経過した後である平成五年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、被告高田に対し右立替金及び手数料の合計である金二三〇万四六〇〇円及び内金二二〇万八六〇〇円に対する弁済期の経過した後である平成五年一月一七日から、内金九万六〇〇〇円に対する弁済期の翌日である同年二月四日から各支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条、九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官金子順一)

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